小林麻央さんが亡くなる前と後では、在宅緩和ケア・在宅ホスピスケアに関する世間の空気が、がらっと変わったことについて、みなさんお気づきでしょうか。
今ではSNSで近況を伝えることは珍しくありませんが、2016年ごろは有名人がamebaブログを書いて近況を伝えることが多かった時期でした。
市川海老蔵(団十郎)さんが、その1人だったのを覚えていますが、同じように小林麻央さんもブログをやっているのだろうなと、あまり深く気にしていませんでした。
徐々に小林麻央さんが入退院を繰り返すようになり、入院中にお子さんやご家族に対する思いをつづった内容が、私の周りでも話題になるようになりました。そして、退院して自宅で過ごされているときの暖かいご家庭の様子から『自宅で過ごすことの意味』を多くの読者が感じられるようになったのではないかと思います。
それまでも、たくさんの芸能人が、がんで亡くなることはありましたが『自宅で過ごすことの意味』をこの時期を過ごした多くの人々にリアルタイムに伝えたことはありませんでした。
その影響力がどれほどかについては、詳しく調べたことはありません。
がん検診を受ける女性が増えたなどの話題がありましたが、特筆すべきは、この小林麻央さんのブログが、『国立国会図書館が後世に残すべき電子媒体』としてサービス提供者の判断で消すことができないようWEBアーカイブとして残されることになったということが、当時の反響を示す一つの評価なのかもしれません。
(小林麻央さんなど42人のAmebaブログ、国会図書館が保存 「後世に伝える意義が大きい」)
今では考え難いのですが、それまでは『自宅で過ごすなんてかわいそう』『病院で何とかしてもらうのが良い』と一般の方々には認識されていました。病院で勤務していた医療従事者ですら、そうだったと思います。
そのため、在宅緩和ケアの先生方が、自宅での生活がいかに穏やかで暖かいものかを伝えようとしても、その認識は変わるものではありませんでした。
小林麻央さんのこのブログで表現されたプロセスを通じて、世間の認識は大きく変わりました。
コロナ禍以降、『論理的思考』『エビデンス』などの考え方がもてはやされていますが、実際はもっと感情的で物語のようにプロセスを共にすることで世間の認識は変わっていくのかもしれないなと思いました。
私たち訪問看護師の立場においも、『やりたいこと』『やりたくないこと』を担保しつつ、『うまくいかない』体験に対して一緒に考えるというプロセスを重視した看護ケアを行っています。
(賢見卓也)